ついこのあいだまで日本人にとっての山は、なにかわけのわからない力や、生き物を秘めた異界であった。神が棲み、人知を超えた精霊の宿るところであった。(本書より)
雨が降り出した登山道を、仲間の待っている柳沢小屋へと駆け下った。街から一直線に水みちを通って、今日の小宇宙を旅した充実感が、私を包んでいた。(本書より)
穏やかで訥弁な一人の農民の半生を描いて、近代史の暗闇を照らす。